26.12.22

「すごいね」の意味

 誰かが精魂込めて仕上げたものに対して、格別興味が無い場合、意気揚々とそれについて話す人に、姉は『すごいね』と言う。

この『すごいね』は、褒めているというよりも、『よくやるよ』の意味合いが強いことを、同居人 T はよくわかっているが、そうコメントされた本人は成し遂げたものをけなされたわけではなく、その労苦に対して相応の評価をしてもらったと解釈し、気分が悪くなることはない。

姉は、誰かが言った意見に対して納得はできないが、別にその事に対して興味も無いという場合には、「ほー、そうなんだ」と言うだけで、賛成でも反対でもない反応をすることが多い。
自分の気持ちに反して安易に相手に同意したりしない態度は、すこぶる強固なものであるのに、『いや、それは間違っている』と真正面から対決姿勢を剥き出しにして食ってかかることがないのは、八方美人なのではなく、ただただ『面倒臭い』からに他ならない。自分にはどうでもいい事に首を突っ込む(或いは関わる)気は更々無いねという意思表示のようなものなのだ。
実際、姉には『八方美人』的な部分が全く無い。
相手がどう考えていようが、自分に火の粉が降りかかりさえしなければどうでもいいことで、どのみちそのような人とは深いつながりを持つ気もないのだから、『勝手にどうぞ』という、ただそれだけのことで、作為も悪意も全く無い。


世の中には、他人の目ばかり気にして生活している人がいる。
特に日本ではそのような傾向が強く、"出る杭は打たれる" のを恐れて、周囲に同調する道を選ぶ人が、おそらく、他国よりも多いに違いない。
善悪に関係無く、周囲に同調する道を選ぶ人々に、『責任感』というものはあるのだろうか?
おそらく、あったとしても薄っぺらなものだろう。


姉は、徹底して、誰に対しても媚を売らない。
そのためか、非常にクールな人、悪く言えば冷たい人と取られることもあろうが、心根は優しく、面倒見の良い人なのである。

そんな姉が年老いた母の面倒を一人で担っていてくれるおかげで、私は何の心配も無く、こうして NZ で暮らしていられるのだ。

本当に有難いことである。


先日、日本に居る長男が私の母の所にプレゼントを持って行ってくれた。
義兄はコロナに感染してしまったのだが、母屋の二階に隔離されており、母は一日のほとんどを離れで過ごすようにしているとのこと。
姉の優れた判断/処理能力のおかげで、姉も母も感染することなく過ごせているようで安心した。(ちなみに、義兄はワクチン接種 5 回と、他の誰よりも多く接種していたのにも関わらず、感染したらしい)

LINE のオンライン ビデオ チャットで、気丈な母の姿も見れ、長いこと会っていない長男や、H の元気な顔も見ることができた。

同居人 T を除いては、髪を短く切り、ほぼグレイヘアになっている私を見ている者はいない。それぞれのスマートフォンの画面の中に映っている私を見つけるなり、一様に『オー!』と驚きの声を上げた家族たち... H のパートナー R に至っては、私が誰だか一瞬わからなかったらしく、画面を食い入るように眺め、その後のリアクションが誰よりも大きかった。

会話の最後の方にビデオ チャットに現れた姉の反応は、「オー、良いね! 良い感じに白髪になったじゃん! 長さもすごく良いよ!」と、想像を遥かに超えたものであった。

ここに書いたように、姉は決してお世辞を言う人ではないので、私は、この今の(自分では全く気にいっていない)髪型が似合っているのか?と非常に戸惑いを覚えた。


年始にパスポートの更新を控えている私。
姉が良いと言ってくれているこの髪型で、パスポート用の写真でも撮るとしようか...



余談だが、義兄の具合はどうかと尋ねた私に、姉は、「夕食のおでんに、『辛子が欲しい』と言ってきたから、大丈夫だら」と笑って言い、それに対して全員で大笑い...

食事は二階まで運ばず、階段の中ほどに置いて来る姉と、階段の中ほどまで取りに来る義兄の姿を想像し、皆で笑ったのは言うまでもない。



追記:
義兄からうつったのかどうか定かではないが、90 歳を超えた母が 26 日夕方から発熱し、コロナ陽性とのことで、自宅隔離しているとの連絡が入った。
食欲は無いが重症ではないとのこと。
姉はまだ症状が出ていないようだが、ずっと母の面倒を見てくれているので、完全に濃厚接触者だ。

悪化しないことをただただ祈るのみである。




0 件のコメント:

コメントを投稿

「ありがとう」ではなく「すみません」

病院に面会に行き、エレベーターが自分の居る階に来るのを待っている時の光景... 到着したエレベーターから降りる人は、必ずお辞儀をしながら降りてくる。 乗り込む際、最後に入ってくる人もまた、お辞儀をしながら入ってくる。「すみません」と言いながらお辞儀をする人が圧倒的に多い。 また、...