18.5.24

子供が出て行った大家さん宅

大家さんの家は我が家の隣にあり、息子さんたちが住んでいた頃は彼らの友達が度々出入りし、常に賑やかな雰囲気だったが、2 人の息子さんが結婚し、市内の他の場所にそれぞれ家を買って引っ越してしまったようで、最近は夫婦 2 人だけで、非常にひっそりとした家になってしまった。

大家さんのご主人は数年前にパーキンソン病を発症し、手の震えから始まり、最近では歩行も困難になって来ているようで、小刻みにしか足を踏み出せなくなっている様子を見ると、何だか痛々しく、息子さんたちが出て行った事へのストレスがだいぶ大きいのだろうなと、察する次第である。

大家さんは、最近事あるごとにやって来ては T に色々仕事を頼むようになった。
多分、彼のパーキンソン病の症状が悪化して来ているためだろうが、庭木の剪定やら草取りやらは、いつの間にか T と私の仕事になってしまっている。
結構な金額の家賃を払っているのに、本来は大家さんが(業者に頼むなりして)やるべき作業を、文句も言わず引き受ける T を大家さんは大層気に入っていて、"自分の息子同様に" 扱うのは、高額な家賃を支払いキツキツな生活を余儀なくされている身としては決して喜ばしいことではないのだが、他に引っ越すのに適した場所も家も無く、仕方なく受け入れるしかない状態でいる。

そんな大家さんが、最近家財を売りに出すようになった。

奥さんに引っ越しを考えているのか尋ねると、「息子たちが出て行って、夫婦二人には家が広過ぎ、夫も歩行が困難になって来ている上に、自分自身も膝を痛めていて、二階への登り降りが苦痛になっている」とのこと。35 年以上も住んでいる家で、他に移るのは非常に残念だけれども、こんな状態なので、階段の無い平屋で良いところを探していると... それに、息子たちと住めば嫁とのいざこざも皆無とは言えなくなり、面倒なので二人で暮らしたいとのことだった。

歳が多くなってくると、健康問題は生きていく上での大きな障害となる。
生まれてからこのかたお金には困らない生活を送り続けてきただろう大家さん夫婦も、健康でなければその優雅な生活を維持できないのだ。

だがしかし、この安全と言われている地域から他に移るのは至難の業だろう。


近年、地震やそれに伴う津波、大洪水による甚大な被害やら、竜巻による大惨事等々、天災と呼ばれる類のものが世界各地で頻発している。

地震や竜巻に関しては、どの地域に住んでいようが、直撃されたらお終いだ。だが、津波、大洪水に関しては、免れることが可能な場所が確実にある。

通常海岸沿いの家は高級住宅地とされていて、ここ NZ も例外ではないが、津波はもとより、大雨と満潮時が重なったら悲惨なことになる可能性は大で、現にミッションベイ(タマキ ドライブ)などでは、私が知る限りでも数回浸水の被害が出ている。

山を背にして建っている家は地滑りによる被害が想定される場合があり、その山(丘)の上に建っている家は崖崩れで自分の敷地の一部が崩落してしまう危険性が否定できない。

昨年 1 月、豪雨に見舞われたここオークランドでは、超高級と言われているエリアでさえも、死者を出すほどの被害があった。
海、河川の近辺やら、低い土地、或いは切り立った崖の上/下に家を構えるのはリスクが大きいことを、多くの人は嫌というほど思い知らされたわけだが、喉元過ぎれば熱さを忘れる人々は、過去に崖崩れが起こっていた地域に、何の対策も施さないまま、新しく住宅を建設していたという事例が報道され、その全くもって愚かな判断が、おそらくこの先も繰り返されて行くに違いない。
しっかりした対策が取られないのは、ひとえに金銭が絡んでいるからに他ならない。
この先起こるかどうかわからない天災を考慮に入れた上で、人命重視の対策を取るかどうか...
思慮深さが試されるところだ。


急坂の多いオークランド。家が高台に建ってはいても、斜面に沿って建てられている場合は、駐車場もしくは階下に水が流れ込むことも懸念される。

また、天災の被害以外でも、車の出し入れが大きなストレスとなるほど急なドライブウェイを下った先に家があるという場合がある。かつて、T の台湾人の友達がそのような所に家を買ったことがあったが、大きな荷物の搬入時には運送の車が家の前まで入れず(下ることはできるが、下ったら最後、大きなトラックは自力で登ることが不可能と思えるほどの急坂)、大きな荷物を歩いて運ばなければならなかったという、笑えない話を聞いた時には、そんな所は絶対にゴメンだなと思った。しばらくしてその友達は別の場所に家を買い、その家は売った。
そのように恐ろしく急な坂の下にある家というのは、T の友達が以前買った家のみならず、至る所に見られる。そのような場所にある家を買う人がいるということ自体が驚きである。

様々な可能性を想定して、"どこに住んでいたとしても免られない災害" を除けば比較的安全という地域の一つである(今住んでいる)ここは、他と比べて犯罪も少なく、物騒な事件も、私たちが住み始めてからこれまで起こってはいない。
大家さんたちは、そんな地域から、どこに引っ越そうと考えているのだろうか?

引っ越してしまったら、おそらく今の家は売るのではなく、借家とするに違いない。
これから少なからず色々なことが変わって行くのだろう。

この先も平穏でいられることを、ただただ願うのみである。




0 件のコメント:

コメントを投稿

「ありがとう」ではなく「すみません」

病院に面会に行き、エレベーターが自分の居る階に来るのを待っている時の光景... 到着したエレベーターから降りる人は、必ずお辞儀をしながら降りてくる。 乗り込む際、最後に入ってくる人もまた、お辞儀をしながら入ってくる。「すみません」と言いながらお辞儀をする人が圧倒的に多い。 また、...