7.12.14

木工は男性の仕事?

「これらは旦那さんが作ってるの?」

前々回のクラフト・マーケットで、一人の女性が聞いてきた。
ここにあるものは全て私自身が作ったものですと答えると、その女性はとても驚いた表情で、並んでいる商品をもう一度じっくり見直し、「素晴らしい技術だわ」と褒めながら立ち去った。

ふと、こちらに来たばかりの頃入った語学学校での一コマが頭に浮かんだ。
ある女性講師が私に向って、「旦那さんは日本で働いていて、あなたに仕送りをしてくれているの?」と、含み笑いをしながら聞いてきた。『いいご身分ですこと』と彼女が心の中で言っているのが目に見えるようにわかった。

I'm a widow.

その一言が彼女の表情をこわばらせた。
彼女は自分の底意地の悪さを実感したのか、非常に丁寧に謝罪してくれたが、私はその時から、アジア人の女性というだけで『旦那の稼ぎでのうのうと暮らしている』と思われる可能性があるということが頭から離れなくなった。
その時居合わせたクラスメイトは、思慮に欠ける教師の、人を小馬鹿にしたような物言いに苛立を感じ、私により一層優しく接してくれるようになったが、周りを見回してみたら、正に『のうのうと暮らしている』部類に入る奥様方がアジア人の中にけっこういることもわかり、私もその人たちと同じようにしか見えなかったのかと心底落胆した。

冒頭の質問をしてきた女性はおそらく、木工は男性の仕事という認識のもとに質問をしてきたのだろうと思うが、「あなたが作ったの?」と聞くのではなく、明らかに私が作ったのではないと決めてかかって質問してきたことに、私は不意をつかれて驚いてしまったのだ。
何故不意をつかれたかと言えば、木工は私にとっては料理や洋裁や編み物やステンドグラスをこなすのと同類の作業で、何ら特別なことではなかったからだ。
私はごく小さい頃から父親や祖父の大工仕事を見て育ち、中学校の技術の授業では誰よりも上手にノコギリを使いこなせたし、教師に教わることは何も無かった。
子供が小さかった頃、洋服はもとより、布絵本、パッチワーク・キルトのバッグなどとともに、木製のドールハウスの家具まで手作りしていたが、裁縫と木工の間に境界線などなく、ごく自然な流れでそれらの作業を楽しんでいた。

まぁ、大工仕事のように体力或は腕力に自信が無ければできないようなものは、さすがにこの歳ではできないが、せめて20年若かったら 挑戦してみたかったなと思った。


昨日のクラフト・マーケットは楽しかった。
最近ずっと隣り合わせているベンダーさんは、シルクとウールを組み合わせた美しいマフラーを手作りして売っているのだが、そこにお客さんが来てどれがいいかとあれこれ試着し始めると、周りのベンダーさんたちが集まって来て、どれが似合っているか各自の意見を言い始める。私もちょこっと覗きに行ってみたら、どういうわけだかモデルになってしまって、色々なマフラーを取っ替え引っ替え首に巻かれるという、面白い経験をした。

ほとんどのクラフターは、コツコツ、コツコツ作り貯めたものを、時給にしたらほんのわずかな収入にしかならない金額で売りに来るのだ。
他のクラフターの仕事を見て、「あぁ、この人も大変だろうな…」と察することができる人たちの中に居ると、『金、金、金』の世界から少し隔離されているかのように感じるが、今月はクリスマスをひかえていることもあって、毎週末マーケットが開かれ、利潤を追求して止まないようにしか思えないベンダーもチラホラ現れるようになって来たため、早くこの時期が終わらないかなと、マーケット会場を眺めながら考えていた。




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