朝晩の最低気温が10℃を切るようになった。秋が来ない内に既に冬になってしまったような気温だ。
まだ暖房をつけていないアトリエでは、連日鉋がけの作業が続いていたが、合板に日本の鉋を使う気にはならず、冷たく重たい金属製の西洋鉋を一日中使い続けていたせいで、腕がダルくて仕方がない。
今週始め、買おうかどうしようかとしばらく悩んでいた西洋鉋を買った。
購入したのは Record No.3 Planeで、1950年代に製造されたものらしいが、状態は概ね良く、ブレードの裏の傷んだ部分を削り落としてしまえば良好な状態になるはずだ。
この No.3 の鉋はNo.4よりも"若干"小ぶりなのだが、想像していたほど小さくはなかった。
だが、この"若干"のサイズの違いは、重量にすると結構な違いに思え、鉋がけ後のシャープな縁をわずかに削り落とす際には特に、軽く、かなり使い易く感じた。
届いたRecord Plane を一通り手入れした後は、頼まれものの曲がった(若干ねじれた)寿司カッター ブレードを真っ直ぐにする作業に取りかかった。
10本ほどの直しを頼まれたのだが、どれも同じ箇所でねじれが起きているということは、おそらく機械そのものに欠陥があるからだろう。
これまでは金属製の平らなハンマー2個を使い、一方は叩き台とし、もう一方のハンマーで叩くというやり方をしていたが、そうするとブレードのコーティングが剥がれ易くなってしまい、見た目が綺麗ではなくなってしまうため、今回はベンチ バイスに挟んで固定したブレードをペンチで挟み、ペンチで少しずつねじれを矯正して行く方法を取った。
こちらの方が断然効率が良く、綺麗に仕上がることがわかったので、今度お寿司屋さんにその方法を試してみるよう勧めてみることにしよう。
ちなみに、お寿司屋さんに以前ブレードの研ぎ方を伝授したことがあったが、それ以降、彼は一度も新しいブレードを買うこと無く、研ぎ直して使っているとのこと。
今回はブレードの捻れを上手く直せないとのことで、捻れだけ直したら、あとは自分で研ぎ直せるので、研ぎ直しはしなくていいと言っていたのを聞いて、私はとても嬉しく思った。
きっと、彼が研ぎ直しをしているのを子供達は傍で見ていることだろう。そして"自分でもできる"ということを学んで行くのだ。
買って来たものが壊れれば捨てて新しいものを買うというのが常識となってしまっている世の中で育った人たちは、『直して使う』とか、『使い易いように手を加える』などという発想が初めから無いまま大人になる場合が少なくない。
出費がかさんで生活が豊かでないと感じている多くの人々が、出費を極力抑える方法があることに気付かず、修理すればまだまだ使えるものを捨ててしまい、新品を買い続け、販売者の"思う壷"にはまってしまっているというのは、実にもったいないことだ。
自分でできるというのは、かなりな経費の節約になることに気付くと、何故これまで(こんな簡単な作業で済むことなのに)それをすることを考えなかったんだろうと思うようになってくる。
本格的に木工を学び始めてから、自分でできることが遥かに多くなった私は、安っぽい出来合いの、しかもサイズが合っていない収納家具を渋々買うなどという必要は全く無くなり、切れ味の落ちた包丁を使い続けることも無くなった。
踏み台が必要になれば余っている板を使って作り、同居人Tが車のパーツを取り付ける際にあったら便利だという治具も端切れの板でチャチャッと作り、同居人Hの車のドアの内張も作り直し、ダイニング チェアのシートが壊れれば張り替えることもできるようになった。
贅沢な物作りはしていないが、経費の大きな節約になっているのは明らかだ。
私の作業を見て生活している同居人たちは、いつか私が居なくなったら、自分たちの手で色々な作業をこなすことを考えるだろう。
そして、作業をしながら私を思い出してくれるに違いない。私がいつも父のことを思い出しながら作業しているように。