3.3.15

父の代わりに包丁を研ぐ

日本滞在1ヶ月…

今回の帰省中にしなければならないことが幾つかあった。
その内の一つに、実家に預けっ放しになっていた我家の想い出の品々を処分するという作業があり、月の半分はそれに没頭せざるを得なかった。
実家の薄暗い物置小屋に置かせてもらっていた荷物の内、こちらに送らないものについては一つ一つ写真に収めてゆき、家族の想い出の品は本人に確認をとった上で要る物と要らない物を仕分けて行った。
経営していた会社の書類は保存を要する期間を越えていたため、全て処分することができたが、その量は膨大であったため、保存していた幾つかのケースを空にするのにかなりの時間を要した。
亡き人の想い出の品はやはり捨てることはできず、ほとんどをこちらに送ることとなったが、私個人のものは日記も含めほぼ全てをゴミとして捨ててきた。

家族5人の想い出の品々は、私が抱えて運べる最大限の大きさの段ボール箱2つに何とか収めることはできたものの、重量はかなりあったため、格安のSAL便を使ってこちらに送るのに4万円弱かかってしまった。痛い出費ではあったが、他人には完全にゴミとしか映らないだろう想い出がいっぱい詰まった品々を捨てることができなかったのは、『安住の拠り所(実家)』を子供達に提供してあげることのできない親としての不甲斐なさを心から申しわけなく思い、せめてわずかばかりでも郷愁に浸れる物を取っておいてあげたかったからに他ならない。


父の遺品である鋸、鉋、鑿、錐などの工具類はスーツケースに詰め持ち帰った。
空港でスーツケースを開けられること無く、すんなり出入国できたのは有り難かったが、開けられ、質問を受けるのを想定していたので、肩すかしを食ったような気分だった。
現金の持ち出し/持ち込みに関しては、税関に馬鹿正直に申告した後、関税がかかるのかとオフィサーに聞くと、日本/NZのどちらの税関でもかからないというので安堵した。
金銭については、その出所を明確に説明できれば何ら問題はないが、英語での受け答えと英文書類への記入ができることを前提にしているため、自信のない人は質問に適当に答えたりせず、まず先に日本語を話せるスタッフを呼んでくれるよう頼むべきである。スタッフを探すのに時間がかかりはしても、イイカゲンな受け答えで不審を抱かせ、懲役刑或は罰金を課されることを思えば待つ時間など短いものである。
ここNZは特に『正直は最善の方策』な国なので、食料品にしても木工品にしても、携行しているもの全てに関して嘘偽り無く申告するべきであることをここに付け加えておく。


NZ帰国日の一昨日は疲れで何もできず、昨日になっても何もできず…
昨日午後になってようやく、父から譲り受けた工具類をスタジオに持って行き、取りあえず鋸の切れ味を試してみると、何年も使っていなかったであろうはずなのに、信じられないほどシャープに研がれた刃はいまだ健在で、驚くほど綺麗な切り口に感動せずにはいられなかった。
改めて父親の偉大さを実感した瞬間であった。


日本への置き土産は、日常使う包丁を研いでおいたことくらいだろうか…
父の使っていたすり減った砥石を使い、丁寧に丁寧に研いではきたが、父の研いだものほど切れ味は長持ちしないに違いない。それでも姉は鶏肉までもがスッと切れると喜んでくれていた。

この先、これまでのスタジオ名を引き続き掲げて仕事をしようかどうしようかと考えている。
おそらく、私の仕事はこれまでとは違ったものになっていくだろう。


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