12.2.19

お師匠さんの選び方

今朝、淹れたてのコーヒーを飲みながら、TouTube で箱根寄木細工の伝統を引き継ぐ若者のビデオを観ていた。

『土産物』を作る作業場で働くその若者は、とても一生懸命に仕事に取り組んではいたが、木工機械のみを使って作った作品 商品は、お世辞にも美しい仕上がりとはいえず、模様は正確に組み合わされていない部分が多く、『印籠』と呼ばれる上蓋をはめる為の出っ張りも、お粗末としかいえない仕上がり具合だったが、親方はその仕上がり具合を見て、印籠部分の雑な仕上がりは指摘したものの、寄木細工部分は綺麗にできていると合格点を付けていた。



その若者が鑿や鉋を使って作業している映像はなかったので、おそらく、その作業所では機械でカットしたものをそのまま貼り付けて良しとしているのだろうと想像できたが、「今日までの作業にミスがあれば、寄せた時に狂いが生じる。特に麻の葉の文様は、失敗すれば中心に集まる線がずれ、見栄えを大きく損なう」というナレーションを聴きながら、狂いの生じた物の映像を映すのは如何なものかと、私はそのTV番組製作者の "質" そのものにも大きな違和感を感じてしまった。

おそらく、"安い土産物レベル" ではその程度で良いということなのだろうが、私が教える立場だったら、安く売るものであっても、それは売り物にはならないとハネるのは確実だ。


私はステンドグラスを教えていた時、『厳しい先生』と言われたことがある。「努力賞はもらえても、合格点はなかなか付けてもらえない」と受講生は笑っていたが、どこに出しても恥ずかしくない物を作るというのは一朝一夕にできるものではなく、練習に練習を重ね、上を目指し続けることが、ゆくゆくは自分の技術の向上に繋がるのだと理解できるようになると、美しくできていない箇所を指摘される方が、適当に「よくできたね」とあしらわれるよりも嬉しく感じるようになるものなのだ。

努力家であればあるほど、厳しいお師匠さんが必要となる。
足元にも及ばない存在の、いわば崇高な存在であるお師匠さんに、何年も、いや、何十年もかけて近付き、そして肩を並べるほどの技術を習得した時、お師匠さんの厳しさを心の底から有り難く思うようになるのだ。

以前観た江戸指物師 木村正さんのビデオで、お師匠さんはとても厳しい人だったことがうかがえるシーンがあったことを思い出した。

「後で考えると、良い親方に出会えたなぁ」と回想し、「素晴らしい親方のところで13年お世話になった」と、しみじみと語る木村さんの姿は、謙虚で、とても美しかった。

「後で考えると... 」
修行時代は、厳しいお師匠さんに凹まされることが度々あったのだろうとなと、この言葉から想像できるのは、私だけではないだろう。

技術が秀でていない親方は、不完全な箇所を一瞬で見つけることができない。指摘されることが多いというのは、それだけ親方が優れているということの証なのだ。
その優れた親方から技術を学び、その上を目指すことが、本物の職人の理想的な形だろう。


前述の、箱根寄木細工の駆け出しの若い職人は、本当にその道を極めたいと思ったら、もっと厳しいお師匠さんに弟子入りするか、もっともっと多くを独学で勉強するかしないとならないなと、ビデオを観ながら思った。

そして、何よりもまず、鑿や鉋の刃を自分でシャープに研ぎ、それらを使いこなせるようになること。それ無くしては、おそらく正確な文様は出来上がらないだろう。
機械ものの刃は、常にシャープに研いである刃物(ハンドツール)には到底敵うものではなく、コンマ何ミリの世界には通用しないものだということを、この若者が自力で知るようになる日が来るといいなと、そんなことを考えながら、unsatisfied なままビデオを観終わった。


*『伝統工芸』という言葉に囚われないのであれば、高品質のサンダーを使って微妙な狂いを調整/修正する手もあるかもしれないが、緻密な設定が要求されることは言うまでもなく、緻密な設定ができる機械は、言わずと知れてべらぼうに高く、設定するのにかなり時間もかかる。また、寄木細工のように各パーツが水平の機械にそぐわない形をしている場合は、それに合わせた治具を作る必要も出てくるというわけだ。

もしかしたら、サンダーに使うための治具を使って、鉋をかけた方が早いかもしれない...と、頭の中で想像してしまった。


今、その治具が、私の作ってみたい物リストに追加された。




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