8.1.16

ピンキングばさみとロックミシン



手縫い針と糸があれば洋服を縫える。ミシンが無くても。
でも、おそらく仕上がりがきれいにはできないだろう。一着全てを手縫いで、しかも縫い目を均一にして縫える人がどれほど居るだろうか? 薄い木綿のような縫い易いものならまだしも、厚手のウールや、つるつる滑る裏地を縫い目を揃えて手で縫うのは至難の業だ。
そう考えると、洋裁にミシンは欠かせないものだという結論に達する。



私が高級洋裁店で縫子をしていた時、そのスタジオでは縫い代の始末をピンキングばさみで切っただけで良しとしていた。
私の姉はその当時でもロックミシンを持っていたので、そんなにお高い店で売るものなのに、ピンキングばさみで切っただけのほつれ易いもので大丈夫なのかと疑問に思った私は、そこの責任者である人(元洋裁学校の校長)に、ロックミシンは使わないのですかとついつい聞いてしまった。
そこでは使っていないけれども、あなたはロックミシンも使えるの?と聞かれたことを覚えている。
そう、ロックミシンがまだまだ一般に普及してはいなかった時代は、プロもピンキングばさみで端の始末をしていたのだが、おそらく今の時代、ピンキングばさみを持っている人の方が少ないのではないだろうか。私はもちろん持ってはいるが、もう何十年もそのハサミを使っていない。なぜなら、鋏でカットしただけの端は当然ほつれ易いからだ。

ピンキング鋏もロックミシンも使わず、別の方法で端の始末をすることももちろんできる。
端から数ミリを折り返し、その上からステッチをかけてほつれを防ぐという方法である。
だが、その折り返した布一枚分の厚みは、アイロンがけをした際にけっこう表にひびくのである。

全ての縫い代の端を、縫い針と糸を使って細かく細かく手で縢ることもできなくはないが、そんな気の遠くなるような作業をしたとしても、出来上がりが綺麗にはならない場合の方が多いのでは、そんなところに時間をかける意味が無い。



日本で使っていた職業用ミシンとロックミシンはこちらには持って来なかったため、ここで永住権を取った後に新品のジューキの職業用ミシン(直線縫いのみのミシン)と、中古のベビー ロックを買った。
このベビー ロックは私が日本で使っていたものと同じ機種で、非常に古い物である。
古い機械なので、本縫い機能は付いておらず、ニット製品を縫う時には不便だなと思うのだが、着る物全てを作るわけではないし、ソーイングを職業にしているわけでもないので、この程度の性能で十分だと今でも納得して使っている。

余談だが、私がなぜ直線縫いしかできないミシンをわざわざ購入するのかというと、ジグザグ縫いができるミシンは、どうしても縫い目がぶれるのを免れられないからなのである。
若い頃、家にはジグザグ ミシンがあったが、ジグザグ縫いで端の始末をしてもロックミシンのように綺麗にはできず、若干攣り気味になってしまったり、飾り縫いとして使っても、やはり綺麗に仕上がることはなかった記憶しかないため、私はジグザグ縫い機能をほとんど使ったことはない。今発売されているミシンの性能がどの程度か全くわからないので、私がここに書いたことは、もしかしたら的を得ていないかも知れないが、それでもやはり、直線縫いしかできないミシンの縫い目の綺麗さには敵わないだろうなと想像できる。なぜなら、針を左右に動かす構造にはなっていない(構造的に左右にぶれないようになっている)ことに加え、直線縫いしかできないミシンの針板には、ミシン針が垂直に通るだけの小さな針穴しか空いておらず、針が布を貫通する際の圧力で布が穴に入り込んでしまうのを防ぐことができるからだ。

話が骨子から少し逸れてしまった…


これまで、綺麗で尚かつ丈夫な物を作るという理念のもとに物作りをしてきて、それに必要な道具を揃えて来たわけだが、最近よく考えるのは、その『必要だ』と思い込んでいた物が本当に必要だったのだろうかということ。また、それとは逆に、技術の進歩が無ければお粗末なままで終わるしかなかった物/事が確かにあるということ。ただ、その『技術の進歩』というのが、純粋に品質そのものの向上を目指したものであったったならと付け加えておかなければならないかも知れないが。


本職だったステンドグラス製作に於いて、電動グラインダーは必要不可欠なものだった。
込み入ったデザインでなければ、また、高価かつ特殊なガラスを使わなければ、昔の、砥石でガラスの不要部分を削り取るという作業で充分対処できたかも知れないが、ハンドカット+砥石だけではどうにもならない種類のガラスを使うようになると、やはり昔の方法ではラチがあかなくなる。

昔の半田ごてというのがどのようなものか、実際には手にしたことはないのだが、火をおこし、そこに鉄でできた半田ごてを差し込み、熱しては使い、冷めたら熱しを繰り返して作業するのは、今の私のアトリエ内では無理であるように思う。
そう考えると、エレクトリック半田ごても必要不可欠なものの中に入ってくる。

木工に於いてはどうだろう…


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